ダイレクト・マーケティングと契約書①

ダイレクト・マーケティングの世界でも,取引にあたって契約書を作成すること・契約書の内容を自社に有利なものとすることは鉄則です。

それどころか,むしろ新しい分野だからこそ,上記鉄則がより当てはまるのです。

契約書作成やその条項については,様々なポイントがありますが,今回は契約書によるリスク回避の実例を紹介します。契約書については重要ですので今後,続編も随時アップします。契約書については,非常に重要ですので,是非,弁護士にご相談いただく習慣を身につけてたいと思います。当事務所でも,ダイレクト・マーケティング関係の契約書の作成やレビューを多数行っております。

さて,ダイレクト・マーケティングの世界では,最近,電通やフェイスブックのインターネット広告における不正が発覚し話題になりました。しかし,これらはおそらく氷山の一角であり,ほかにも相当数があると思われます。これは,インターネット広告の技術の高度化(例えば,オークション方式での広告入札等)により一般顧客による契約どおりの広告の既出の確認が困難になったことが一因です。もちろん,広告会社サイドに対抗できる技術知識を身につけるのも大事ですが,中小企業の場合,限られたリソースの中でこれを行うのは困難です。
そこで,上記の例で具体的にどのように契約書の条項で,広告主側のリスクを回避するのかを説明します。

1 不正請求等や不適切な行為をしないことは当たり前であり,契約書に入れても入れなくても法律的には違いはありません。問題はいかに不正請求や不適切な行為をされないことを実効化するかです。

2 不正等があればそれを確認できる手段の確保
例えば,管理画面を何時でも閲覧等できる権利を契約書に入れる。
さらに,実効性を担保するために,その権利が実現できない場合や不正があった場合のペナルティーを入れる(例えば,契約解除,広告料金の10倍返し等)。
このような条項が無ければ,確認しようがなく,極端な話しなにをされても文句が言えません。

3 不正等を行おうとする動機を減少させる手段の確保
万が一,不正等が発覚した場合のペナルティーを大きくすれば,不正等を行おうとする動機を減少させることができますし,過失によるミスを減らすことができます。契約関係では,相手からうるさいと思われる方が確実に得です。
なお,このような条項については,相手方からの抵抗・反発が強く予想されますが,そのような場合は,「故意・重過失」の場合に限定することにより相手方の了解を得られる場合があります。

4 立証を容易にする手段の確保
広告で不正があった場合にこれを立証することが容易でないのは上記のとおりです。
しかも,広告を出す側も,自社の評判に関わるので容易にこれを認めることはありません。そうすると,法律の原則どおり,訴える側(=損害賠償を請求する側)が,合意どおりに広告を出していないことやそれによる自社の損害を証明しなければいけません。しかし,これは決して簡単ではありません。
そこで,契約書において,立証責任を転換するような条項を設けることという対策が考えられます。
例えば,広告サイドにおいて合意どおりの広告が出されていることを証明できなければ債務不履行があることにする条項を設けるとか,損害額のみなし規定(例えば,損害額を立証しなくても損害額を一定額と定める条項があれば,損害額の立証は原則として不要となります)。

いうまでもなく不正をするような会社とは誰も付き合いたくないですし,そのような会社は多くないでしょう。また,手間暇お金をかけて裁判をしても,日本の場合では確実に割が合いません。従って,これは「トラブルや損害の予防策」や「トラブルとなった場合の早期解決」との位置づけとなります。

「情報力・技術力の格差」に起因する不正や不適切な行為により御社の損害を防ぐには,技術だけでなく法律で対抗する手段もあるのです。

ダイレクトマーケティングの世界で「勝つ!」

「ダイレクト・マーケティング」(Direct Marketing)という言葉・概念自体は50年以上前にアメリカで使い始められています。しかし,ダイレクト・マーケティングという手法が「実践」という部分で花開いたのはいうまでもなく,近時のIT技術の爆発的な発展によるものです。例えば,顧客との双方向的なやりとり,効果測定,各種メディアの利用,場所を選ばない商取引等は,いずれもIT技術の発展により非常に効率的かつ安価となっています。さらに今後はAI(人工知能)の進歩が,ますますダイレクトマーケティングを進化させるでしょう。
これからの企業活動は,業種や規模を問わず,ダイレクト・マーケティングなしでは語れないものとなっていくことは確実です。別の言い方をすれば,ダイレクト・マーケティングを活用できるか否かが,勝ち組・負け組の分かれ目となるともいえます。

ダイレクト・マーケティングの重要性は先に述べたとおりです。しかし,ダイレクト・マーケティングもいうまでもなく法律の枠外で活動するものではありません。民法・商法などの取引一般に関する法律,消費者契約法・特定商取引に関する法律・景品表示法等の消費者保護法,その他不正競争防止法や知財関係法等さまざまな法律が関わってきます。
また,BtoBの取引の場合には,ダイレクト・マーケティングやテクノロジー及び法律実務について十分に精通した上で,自社に有利な契約を締結しなければなりません。
「ダイレクト・マーケティングと法律実務」の世界では,テクノロジーという新しい世界と法律という保守的な世界との狭間で両方を十分に理解し結合させて対応しないといけないのです。

20年近くにわたり弁護士として多様な経験を積み,また,現在ダイレクト・マーケティングの第一人者である広告会社の顧問弁護士としてダイレクトマーケティングに関する多様な法的問題に対応している筆者が,ダイレクトマーケティングに関わるすべての企業 に対し,ダイレクトマーケティングの世界で勝ち組となるための実務的法的知識を提供するのが本ブログの目的です。

皆様の実際のお役に立てればこれに勝るよろこびはありません。