闘わずに勝つのがベスト。当然のことです。我々,弁護士にとっての闘いの場は「裁判」ということになるでしょうか。しかし,裁判制度は,神様が天上世界からすべてを見ていて正義の判決を下してくれるわけではありません。人間である裁判官が法律と証拠に基づいて判断するだけですし,裁判官の能力差もあるし,裁判官も間違えることがあります。一般の方は,裁判になれば正義が実現されると思っているようですが,必ずしもそのようにならない場合も多数あります。その上,裁判は時間もお金もかかります。
われわれの事務所でも,かような現実をみて,なるべく裁判にしないことが依頼人にとってベストであるとの認識のもと対応しています。しかし,何でも譲歩していたら裁判にはならないでしょうが意味がありません。そこで,弁護士としての「絵を描く」能力が問われるのです。ベストのシナリオを書くには,やはり相手方の考えを見抜く洞察力や相手方の動きを予想する予測力が重要です。私は,子どもの頃「お絵かき」は最低でひどい絵ばかり描いていましたが,今やっている「弁護士としての絵描き」はかなり良い絵が描けていると自負しています。皆様も,弁護士に相談する際は,裁判になる前,しかもなるべく早く相談されることをおすすめします。
一つ例を挙げましょう。どうしてもやめさせたい社員がいたとします。そこで,いろいろ落ち度を探し,いきなり「解雇」をしていまう経営者がいます。しかし,現在の裁判例の考え方は,はっきりと労働者寄りであり,解雇を有効と認めてもらうには非常にハードルが高いし,手続きミスでもあれば解雇はすぐ無効となります。そこで,解雇無効を訴えられたり,組合に乗り込まれたりし,挙げ句の果てに大金を取られてしまうのです。
やめさせたい社員がいるときは,「解雇」に向けたシナリオをしっかりと構築する,そしてなによりも「会社にいなくなってもらうこと」が目的なのですから,「解雇」しなくてもやめてもらうようにすれば良いのです。相手方に退職届を出させれば,「闘わずに勝った」という大勝利です。そのような方法はいくらでも考えられます(決して違法な行為や,いじめで追い出すと言うことではありません。念のため。)。